日本語文章ルール 「12:間違えやすい語句(5)」

間違えやすい語句(5)

変換ミスや覚え間違いの多い言葉をいくつかご紹介します(さらに続き)
言葉の意味やつかいかたの変遷<へんせん>を知っておくだけでも、ちょっと自信がつきますよ。

【鎬(しのぎ)をけずる】
凌ぎをけずる⇒×
■「鎬<しのぎ>」という日本刀の一部分。
■「凌ぎ」=「なんとか耐えぬく(こと)」は「削」れないので、この場合誤字。
■「まさか刀の鎬のとこまで削れちゃったのか!?(そうとう激しい戦いだったんだな!!)」という意味から「激しく争うさま」を表します。

【弱冠(じゃっかん)】
若冠⇒×
■「弱冠」=「20歳」が転じて「若くして(若いのになんてすごい!)」という意味。
■「若冠」は、「弱冠」と「若干<じゃっかん>」=「ちょっと、わずか」が混同されたことによる誤字みたいですね。

【照準(しょうじゅん)を合わせる/定める】
照準を当てる⇒×
■「照準」=「ねらい」
■「照準」を「ねらい合わせ(さだめ)」て発射するので標的に「当たる」。
■「当たる」は対象物と「接触する」ときに使われるので、「照準」という言葉には不適ですね。

【食指(しょくし)を動かす】
食指を伸ばす⇒×
■もうどっちでもいいような気がするのですが、指は骨の長さで決まっていてびよーんとは伸びない(伸びなさそう)もの、とするようです。
■「触手」は軟体なのでびよーんと伸びる(伸びそう)というイメージでしょうか。よって「触手を伸ばす」は○。
■触手もせいぜい長さに限度があるような…。手が伸びるので諸説あり「食指を伸ばす」も完全な誤用でもないとするものも。

【心機一転】
心気一転⇒×
新機一転⇒×
■「一」つの動「機」で「心」が「転」換すること。「心機一転」=「あるきっかけで気持ちが大きく変わる」という意味。
■「心気」=「心もち、気持ち」だと、「あるきっかけで」という意味が不足するので、この場合誤用。

【進退(しんたい)谷(きわ)まる/窮まる】
進退極まる⇒×
■「きわまる」を「谷まる」と書ける人のほうが、めずらしいですね。漢語の授業くらいしか見かけません。
■敵に山の「谷」に追い込まれ、行き止まれば「窮」地に立つことからどちらも同じ状況で「きわまる」と読むようです。
■「進退きわまる」=「まずいぜ!」「超ヤバいな!」「詰んだ…」という意味です。

【真理(しんり)を究(きわ)める】
真理を極める⇒×
■「極める」=「物理的なアプローチで頂点に達する(この先はもうない)」。
■「究める」=「学問的なアプローチで深く知っていく(この先はまだある)」。
■「真理」には物理的な頂点は存在せず、学術的な対象であるので「究める」のほうが適当ですね。

【切羽(せっぱ)詰(つ)まる】
切端(せっぱ)詰まる⇒×
■そもそも「せっぱ」が意味がわからないと思う人用にどうぞ…↓。
■「刀の鍔<つば>を両側からはさむようにしてとりつけられた金属の丸い部分」を「切羽」といいます。
まず見たことないですよね。
■鞘と(鍔がついた)剣だけあっても、スルスルして閉まらないんだそうです。ちゃんとカチャリと閉まらせるためには切羽が大事な役割だったみたい。
■「切羽」が「詰まる」ということは、刀の開け閉めが全くできなくなるということ。時代劇の抜刀時のギャグシーンでもありそうですが、本物の戦いのときにはそれは「絶体絶命=死」を意味します。
■「シャレにならないほど(死ぬほど)ヤバい」状態におちいったことを「切羽詰まった」といいます。

【節<せつ>をまげる/自説<じせつ>をまげる】
■「じせつをまげる」「せつをまげる」=「譲歩<じょうほ>するという意味。
■「自分の節を曲げる」と用法はあるとのこととはいえ、「自分の節」とか「自節」という言葉は今ではまず聞かないですね…。

【双璧(そうへき)】
双壁(そうへき)⇒×
■「壁<へき>」=「かべ」そのものを指す。家のカベなどのように、平らで広い板。
■「璧<へき>」=「宝石」として扱われるきれいな石。
■「そうへき」は「どちらも同じくらい素晴らしい能力(の持ち主)」というプラスの意味だから、「すばらしい能力(宝)」=「璧」が適当。

【見栄(みえ)をはる】
見得をはる⇒×
■「見栄」=「ないのにあるかのように外部に見せること」
■「見得」=「(歌舞伎役者の)決めポーズ」。ちなみに見得は「切る」ものです。チョチョン、と。
■「みえをはる」は「無理して自分(のメンツ)を飾りたてる」というマイナスイメージの語なので「見栄」が適当。

【あくどい】
悪どい⇒×
■諸説ありますが「あく」=「灰汁」、「どい」は接尾語とみるようです。
■「灰汁」=「エグみのある」「嫌な」「いやみな」から転じて「いやなやりかたで」=「あくどい」となったみたい。
■「あくどい」には「道徳に反する(悪)」という意味も含みますが、「やり方(手段)の汚さ」のほうにイメージが置かれた語です。だれがみても一目で黒とわかる「悪」よりも「灰汁」のグレーのほうが巧妙でいやらしく狡猾な印象があったのかもしれませんね。
■現代の食材は改良や洗浄により、たちの悪い「灰汁」にはなかなかお目にかかりませんね。昔は文字通り灰に水をいれたようなグレーのエグーイ灰汁がモリモリ出ていたのでしょう。ちなみに灰汁は完全に除きすぎるとと逆に美味しくなくてダメみたいです。意外と深い…。